対極にあった2人がチームになるまで
星野さんがプログラムに参加したきっかけは、コンサルタントとして働く中で感じた「違和感」だった。
「コンサルティングの報酬が”高すぎる”と感じるんです。一方で、ビルの掃除に来る清掃員の方や、保育士、介護士といった、生活に必要不可欠な仕事に十分な報酬が与えられていない。なぜここに評価が与えられないのだろうと思い、その課題解決に向けたサービスについて考えていました。そんな中、Antlerのプログラムを知り、育児休暇を利用して参加できればと思ったんです。」
一方で、エンジニアの米一さんの夢は星野さんと大きく違うものだった。
「もうひとつの世界を創りたかったんです。」
彼が目指したのは、仮想空間にもうひとつの現実を創ること。『メタバース』などに代表される、いわゆるWeb3の領域だ。
「ぶっ飛んだことしか言わないので『なんだこいつは…?』という感じでした(笑)」
と星野さんが話す通り、全く異なるバックグラウンドを持って参加した2人。だが、プログラムを通じて、米一さんも徐々に星野さんの事業に興味を抱くようになる。
「星野さんには、自分の事業構想について厳しいこともたくさん言われたんですが…。話す機会が増えるうちに、徐々に彼の事業に興味が湧いてきたんです。」
こうしてチームを組んだ2人は、自社事業である「Woz Land」の立ち上げに向けて構想を練り始めた。
ユーザーの自律的な活動に価値を与え、プロダクト開発を推進
「Woz Land」は、スタートアップのプロダクト開発支援を行うプラットフォームだ。ユーザーがプロダクトのアイディアを投稿することで、エンジニアをはじめ、興味を持ったほかのユーザーと一緒に開発を進めることができる。協力したユーザーにはプロジェクトのトークンが配布され、トークンの売買を通じて報酬が得られる仕組み。開発の根底には、管理者の介入なく、ブロックチェーン技術に基づく透明性とセキュリティを確保しながら、ユーザー同士で自律的にプロジェクトを推進するDAO(分散型自律組織)の概念がある。
「エンジニアとDAOは相性が良いんです。エンジニアには『オープンソース』の文化が根付いていて、ソースコードを含む情報や技術をオープンに共有して、よりよいものを目指していく姿勢があります。そんな彼らをDAOによってつなげば、もっと面白いプロダクトや起業家が生まれるかもしれない。そんな風にワクワクしながら開発に携わりました。」
と米一さんは言う。
だが、そのWoz Landはリリース以降、わずか1週間で撤退してしまう。一体何があったのか?
2つの大きな課題に対し、試行錯誤を繰り返した結果…
Woz Landのリリースに向けて2人を悩ませたのが、「マネタイズ」と「ユーザー獲得」だ。
「この課題を解決しようとした結果、最初の構想よりもビジネスモデルが複雑になりすぎてしまった。」
と星野さんは振り返る。
「マネタイズの仕組みを作ろうと、資金調達やコミュニティ形成の機能を色々盛り込んでいったのは良いものの、追加機能にニーズがあるかどうか、検証しきれないままリリースをしてしまった。リリース後にどうユーザーを獲得していくか? という戦略も詰め切れませんでしたね。」
Woz Landがコミュニティとして動くためには、ユーザーの投稿したプロダクトが実際に完成し、収益を上げられるようになる「成功体験」が必要不可欠だ。プロダクトベースで企業とエンジニアをマッチングする案といったマネタイズの方針を探ったものの、意識するほど「当初作りたいものから離れていく感覚があった」と米一さんは言う。結局「Woz Land」はクローズすることになり、チームは解散となった。
今度こそ「世界を創ること」を諦めない
起業支援プログラムを終えた2人に、『今ならどうするか』振り返ってもらった。
「Woz Landの開発では、自分のビジョンを意識しすぎたと反省してます。自分に必要だったのはビジョンではなく、0から1を立ち上げる経験でしたね。ビジョンにこだわりすぎず、多くのアイディアを出してから、スケールしていきそうなものを見極めていったほうがよかったなと。」
と星野さんは言う。
現在、星野さんはChat GPTを活用し、コンサル向けの業務支援ツールやSNSの自動運用サービスなど良いと思ったアイディアを並行して進めている。「上手くいくプロダクトを世に出す」が次の目標だ。
一方、米一さんは「自分には熱量が足りなかった」と振り返る。
「『世界を創る』という自分のやりたかったことを諦めて、妥協してしまった。それがよくなかったのかなと思っています。」
米一氏もまた、受託開発の事業と並行して次のチャレンジの準備を進めている。今年の11月頃から再び、本格的なサービス開発に着手する予定だ。
「今度こそ、自分のやりたいことに取り組みます。それで一文無しになっても構わない。Antlerで出会った周りの起業家に負けないぐらい熱量を持って取り組むつもりです。僕はもう、『世界を創る』ことを諦めません。」